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サンダーバード第一話 ファイヤーフラッシュ号の横風着陸

SF人形劇サンダーバードのTVシリーズ第一話「SOS原子力旅客機」(Trapped in the sky)では、着陸装置に爆弾を仕掛けられた旅客機ファイヤーフラッシュがロンドン空港にアプローチするとき、横風着陸でクラブ~スリップアプローチを見せます(下の動画の1分51秒から)。

このシーンをフライトシムマニア的に検証してみましょう。

まずは予備知識から。

 

SF人形劇サンダーバード

サンダーバード(原題Thunderbirds)は1965~66年にかけてイギリスで放送された、TV向けの人形劇シリーズです。

国際救助隊(International Rescue)という組織が、世界中で発生する事故・災害で救援(人命救助)活動を行うという基本ストーリーで、さまざまな救助用メカニックが登場します。

サンダーバード日本版オフィシャルサイト

本記事では、劇中に登場するメカなどの固有名詞は、おもにTV放送で慣れ親しんだ日本語版の記憶にそって記述します。あくまで記憶がベースなので、公式設定などとはちょっと違いがあるかもしれませんがその点はご容赦ください。

 

原子力旅客機ファイヤーフラッシュ

ファイヤーフラッシュMk.VIはAir Terraineanが新たに就航させた最新鋭の原子力エンジン搭載旅客機。音速の6倍で飛行し、第一話では初の商業飛行でロンドン~東京間に就航します。

サンダーバードには多くのゲストメカが登場しますが、中でもファイヤーフラッシュは第一話の準主役というインパクトもあって人気が高く、その後もいくつかのエピソードでたびたび登場します。

番組が放送された1965年は第二次世界大戦終結からちょうど20年。前回の東京オリンピックの1年後。ウルトラマンが放送される前年です。
当時日本は高度成長期の真っ最中とはいえ、メイドインジャパンが高品質の代名詞として語られるようになるのはまだずいぶんあとのことです。

そんな時代に、WWⅡで敵国だった日本へ向けて初飛行するという設定を第一話にもってくるあたりはなかなか唸るものがあります。

 

着陸できないファイヤーフラッシュ号

第一話でのファイヤーフラッシュは、左の主脚を動かす油圧装置付近に爆弾をしかけられて、着陸するとその衝撃で爆発する状況に陥っています。

単なるテロではなく、国際救助隊(インターナショナルレスキュー)の秘密を盗み出そうとする悪人フッドが仕掛けた罠。

初フライトに離陸したファイヤーフラッシュを見送ったフッドは、ロンドン空港の管制塔に電話を掛けて爆弾をしかけたことをバラします。

フッドは国際救助隊の秘密をカメラで撮影しようともくろんでいます。そこで国際救助隊が出動せざるを得ない状況に追い込むため、わざわざ犯罪を通報しています。

フッドの脅迫を受けて、管制塔はファイヤーフラッシュをロンドン空港へ呼び戻します。
機長は着陸しようとしますが、衝撃で爆発する可能性を懸念して管制塔は許可しません。

かといって、そのまま飛び続けることもできません。
実は、このファイヤーフラッシュMk.VIには大きな弱点があり、原子力エンジンからの放射線を防ぐシールドを頻繁に交換しないと、乗員乗客が放射線によって被曝してしまいます。
劇中では、ファイヤーフラッシュと管制塔で交わされる交信の初めのほうで残り2時間10分と言っています。

世界中の通信を傍受していた国際救助隊は、このトラブルを知り初めての救助活動としてファイヤーフラッシュ救出に向かうことを決定します。

その間、ファイヤーフラッシュ側でも爆弾を取り外そうとしたり、空軍による救出が試みられますが残念ながらどれも失敗。ここまでの流れが緊迫感を高めていきます。

 

高速エレベーターカー登場

国際救助隊では、現地の状況把握に先行する高速ロケット機サンダーバード1号とその指示を受けて活動する救助メカを搭載した大型輸送機サンダーバード2号のペアが基本的に活動します。

第一話では大型旅客機救助用メカとして高速エレベーターカー(Elevator Car)が登場。
エレベーターカーは、車体全体が航空機の機体を支えるプラットフォームになっていて、劇中では3台で機首と両翼を支えます。

機首を支える先頭の一台がマスターエレベーターカーで、サンダーバード2号のパイロットでもあるバージル・トレーシーが操縦。残る2台はリモートコントロール操縦です。

マスターエレベーターカー

マスターエレベーターカー

一方、サンダーバード1号のパイロットで現場指揮を担当するスコット・トレーシーは、ロンドン空港の管制塔に移動指令室(モバイルコントロール)を設置して、ファイヤーフラッシュとマスターエレベーターカーのバージル、双方に指示を出します。

3台のエレベーターカーはロンドン空港のランウェイ29を疾走(ディーゼルエンジンの音をとどろかせながら)、アプローチしてくるファイヤーフラッシュを受け止めようと試みますが、左翼を担当する3号車が操縦不能に陥り、駐機している航空機にぶつかって炎上。

ファイヤーフラッシュは、やむなくゴーアラウンドでトラフィックパターンに戻ります。

一方国際救助隊は予備の4号車を滑走路に向かわせ、あらためて着陸に備えます。

すでに放射線シールドのタイムリミットを超えていて、これ以上時間をかけると乗員・乗客とも被曝しまいます。次で決めないともう時間がありません。

動画の中で機長が呟くシーンがあります。"This time is the last time."

 

最後のアプローチ

さて、ここから動画の解説。

ファイヤーフラッシュが左下降旋回に入るところからスタートです。

機長がロンドン空港に設置された国際救助隊の「移動司令室」(Mobile Control)と交信。2回めのアプローチに入ることを告げます。

次のシーンは事故に備える消防車や救急車。

続いて滑走路に再び待機する高速エレベーターカーのカット。3号車が破損したため、サンダーバード2号のコンテナ(Pod)から新たに4号車が出現(ディーゼルエンジン音をとどろかせて)。

続いて、ピッチダウンでアプローチしてくるファイヤーフラッシュ。

ランウェイ29へ向かうエレベーターカー4号車と、ファイヤーフラッシュコックピットのインサートショット。

すでに滑走路上で待機中のマスターエレベーターカーでは、バージルが4号車を遠隔操縦して所定の位置へ走らせます。

再びファイヤーフラッシュのコックピット。
ここで機長が先ほどのセリフを呟きます。"This time is the last time"

 

待ち受けるエレベーターカー

続いてロンドン空港管制塔。管制官が、ファイヤーフラッシュがフライトパスにのって接近していることを告げます。

「スレッショルドまで4マイル」

ファイヤーフラッシュは依然、ピッチダウンでアプローチ継続中。

移動司令室のスコットからマスターエレベーターカーのバージルへ、ファイヤーフラッシュがファイナルアプローチに入ったことを報告。

3台のエレベーターカーを納めた遠景ショットは効果音もなく無音。

次のカットは一転してアイドリングのエンジン音が響くエレベーターカーのコックピットで待機するバージル。

"OK, Scott. Standing by"。

BGMで盛り上げなくても緊張感が高まります。

 

近づくスレッショルド

ファイヤーフラッシュは依然アプローチ中。

機長がグライドパスに乗って毎分500フィートで降下中であることを確認。スレッショルドまで3マイル。

確認するスコットと管制官のやりとり。事故に備えて救急車両をランウェイ29で待機させます。

ファイヤーフラッシュの機長がランウェイまで2マイルをコール。
このあと動画の1分25秒あたりで、ファイヤーフラッシュが降下角をやや緩めて、機首が少しだけ水平に近くなります。ラウンドアウトにはまだちょっと早そうなタイミングです。

移動司令室のスコットが残り1マイルをコールしていよいよ救助作戦開始。

マスターエレベーターカーで待機していたバージルが"FAB"(了解の意味)と返して、3台のエレベーターカーがスタート。

次のシーンではファイヤーフラッシュはすでに軽くフレアを掛けて、わずかにピッチアップ姿勢。減速に入っているはずです。

管制官がスレッショルドまで500ヤードをコール。対気速度を確認すると、スコットが「105へ増加」と指示。それに対しファイヤーフラッシュから確認の応答。

続いて疾走するマスターエレベーターカーのショット。

ここからいよいよクライマックスです。

 

ショットだけで見せる緊迫のアプローチ

1分50秒のシーン。

滑走路上のファイヤーフラッシュを後方から捉えたショット。

機首はセンターラインからやや左へそれています。

ファイヤーフラッシュのクラブアプローチ

クラブアプローチ中のファイヤーフラッシュ

実は一回めのアプローチでも同様に機首が左へそれているのを修正していますが、特に説明はありません。二回めのアプローチでも同様です。
つまりここは、ファイヤーフラッシュが左からの風を受けながらクラブアプローチで侵入しているというシーンです。

これはこのあとの伏線と言うよりはあからさまな予告です。
ただしそれが通じるのは航空機の知識が豊富な人のみ。おそらく視聴者のほとんどはこのシーンの意味がわかりません。

私も子どもの頃は、滑走路の背景に対してファイヤーフラッシュの模型をまっすぐ配置できてないなぁ、程度にしか見ていませんでした。

しかし、よく見るとファイヤーフラッシュはセンターラインから少しだけ左へそれて行きます。ただ飛んでいるだけのシーンなら模型をわざわざ動かす手間は必要ありません。
分かる人にはわかる、明らかにクラブアプローチ中ということを示す演出です。

もし本物のパイロットだったら、フライトパスをセンターラインからぶらさず機首だけ向けられるんでしょうが、そこは子ども向けの特撮ドラマということで少しだけ誇張した演出にしたのかもしれません。

疾走する高速エレベーターカーのショットを挟んで、ふたたびファイヤーフラッシュのバックショットに戻ると、先ほどよりも少し機首をセンターラインに寄せながら、なおかつやや左へそれていた機体全体がセンターライン側へ戻ってきます(1分56秒~58秒あたり)。

かなり風に流されているのでしょう。コックピットでは機長が左へエルロンを切りながら、オポジットラダーを細かく修正しているはず。

説明的な描写は極力避けつつ、状況をそれとなく分からせようというめちゃくちゃシブい演出が続きます。

 

クラブからスリップアプローチへ

エレベーターカーの疾走シーンと操縦するバージルのアップショットのあと、2分02秒から再びファイヤーフラッシュのバックショット。すでにエレベーターカー3台がフレームインして、そこへファイヤーフラッシュがじわりと接近しています。

ここでついに、本来の英語版オープニングタイトルにも使われる、サスペンスフルなあのBGMが。いやがうえにも緊迫感を煽ります!

注目すべきなのは、マスターエレベーターカーがセンターラインよりやや左を走っているのと、左翼を担当する4号車がやや遅れているところ。

ファイヤーフラッシュは依然クラブアプローチ中。マスタエレベーターカーとはだいたい角度が揃っています(滑走路センターラインに対して)。ここがクライマックスへの伏線です。

エレベーターカーとファイヤーフラッシュ

エレベーターカーに接近するファイヤーフラッシュ

マスターエレベーターカーがやや左へ寄っているのと4号車が遅れ気味に見えるのは、たぶんクラブアプローチで侵入してくるファイヤーフラッシュに合わせているからで、実際にはやや左に機首を向けているファイヤーフラッシュの真下にどんぴしゃり収まる相対位置のはずです。

しかしそうなると、クラブからスリップアプローチに切り替えるのに合わせて、エレベーターカーの位置を修正していく必要があります。

そして2分06秒でファイヤーフラッシュの機首が滑走路センターラインにアライン! ここでようやくクラブからスリップアプローチ(ウィングロー)に切り替わりました。

映像にはでてきませんが、このときマスターエレベーターカーはセンターラインへ寄せていき、4号車は加速して少し前へ出ているはずです。

スリップアプローチに入る

スリップアプローチに入り機首がセンターラインに揃う

 

バージル、見落とす!

2分09秒。前方からのショットに切り替わると、ファイヤーフラッシュはフレアを掛けてやや機首上げ中。

左翼担当の4号車は(着陸脚がある)翼端に位置していますが、右翼担当の2号車はかなり内側のようです。

2分11秒。マスターエレベーターカーのバージルが、横目で左を一瞥。おそらくバックミラーかリアビューモニターで4号車と左翼の位置関係をチェックしています。

しかし次のショット(2分12秒~)では4号車が明らかに遅れています。
続いて右の2号車もチラ見で確認するとこちらはほぼ所定の位置に入っていました(2分14秒~)。

この一連のショットでまず注目してほしいのが、両エレベーターカーと主翼翼端の高さ。
先に左翼を担当するエレベーターカー4号車と主翼を見せて、次に右翼の2号車と主翼を見せています。

4号車と左主翼

4号車と左主翼

このとき左主翼が低く右主翼は高いので、この時点で完全にクラブからサイドスリップアプローチ(ウィングロー)に移っているのがわかります。

2号車と右主翼

2号車と右主翼

続いての注目は、明らかに4号車が遅れているのに、それをバージルが見落としてしまっていること。あるいは先ほどまで内側に入り込みすぎていた右の2号車が気になっていたのかもしれません。

本来4号車はファイヤーフラッシュの姿勢変化に追随して少し前に出てこなければいけない場面ですが、バージルは気づかないまま2分19秒でファイヤーフラッシュへ向けて”Cut Engines!"を指示します。
しかし遅れていた4号車のポジションが合わず、左主翼を支えるのに失敗してしまいます。

 

滑り込む4号車

時系列的には左翼を支え損なうのが先のはずですが、映像では2号車が右翼を支持→マスターエレベーターカーが機首を支持→4号車が左翼の支持に失敗というシークェンスになっているのは演出上の理由でしょうか。

気づいたバージルはすかさず"FireFlash, Lift Port Wing!, Lift Port Wing"(左主翼を上げろ)と指示し、それに応えてファイヤーフラッシュが左主翼を持ち上げたところになんとか4号車が滑り込んで支えるのに成功しました。

最終段階の流れを振り返ると、まずクラブからサイドスリップ(ウィングロー)に切り替えて風上側の左へバンクをとったことで、ファイヤーフラッシュの左主翼は下がった状態です。
続いてエンジンをカット。エレベーターカー4号車が遅れていますが、すでに左主翼が下がっていてそのままでは所定の位置に入れません。そこで一時的に左を上げて(当然操縦桿を右に倒しているでしょう)4号車が潜り込むスペースをこじ開け、結果的に左翼を支えることができたという描写になっています。

左風を受けての着陸で、スリップアプローチ(ウィングロー)に入れたとき左翼が必然的に下がってしまったのがあの場面につながったわけです。

このあとファイヤーフラッシュはスラストリバーサーを使って減速開始。エレベーターカー3台もフルブレーキングします。途中マスターエレベーターカーが脱落してファイヤーフラッシュは機首を滑走路にこすりつけながらも、最終的には停止に成功。爆弾を爆発させずになんとか着陸できました。

逆噴射するファイヤーフラッシュ

エレベーターカーに支えられたファイヤーフラッシュ

さらにフッドを追い詰めるなどエピローグがあったり、放射線シールドのほうはどうなったのかという疑問が残りますが、飛行機マニア的な見どころはここで終わりです。

爆弾と放射線のふたつの脅威をメインにして、横風着陸がさらに緊張感を高めるという味付けになっていました。

 

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