操縦

単発レシプロ機の基本特性(ターンテンデンシー)を理解しよう

YouTubeチャンネルThe Air Combat Tutorial Libraryの動画を視ながら飛行の基礎を学ぶ、勝手な独習シリーズです。

Principlesの3本めでは、レシプロ単発機の基本的な特徴である、ターンテンデンシー(Turn Tendency)について紹介しています。

P-ファクターは昔はプロペラブレードに当たる気流の迎角の違いとして、ブレードが下へ動く方と上へ動く方の差で説明されていましたが、どうやら現在では違うようです。この動画の説明の方がしっくり来て、ようやく理解できた気がしました。

 

ターンテンデンシー

ターンテンデンシーはレシプロ単発機に特に顕著に見られる機体の特徴をまとめて説明する用語で直訳すると「曲がりたがる傾向」です。

日本語ではどのように訳されているのか、浅学にして知りません(ご存じの方いたら教えてください)。ここでは「旋回傾向」と訳しておきます。

ターンテンデンシー(旋回傾向)には、左へ曲がりたがるもの(Left Turn Tendency)と右へ曲がりたがるもの(Right Turn Tendency)のふたつがあります。

その原因はプロペラの回転方向で、コックピットから見てプロペラが時計周りに回る機体はLeft Turn Tendency、反時計周りに回るものはRight Turn Tendencyとなります。

単発レシプロ機の特性特性

単発機ではプロペラの回転方向が、機体の基本特性に影響する

上のスクリーンショットのうち、上の機体はLeft Turn Tendency、下の機体はRight Turn Tendencyとなります。

動画ではプロペラが時計周りに回るBf 109を例に紹介しているため、この記事でもLeft Turn Tendencyについて紹介します。

動画では、ターンテンデンシーを理解することには4つの目的があると説明しています。

  • 反応するのではなく予測してラダーを使う
  • 過剰な修正を避ける
  • 釣り合いの取れた飛行
  • 性能の改善
基本特性への対処

対処法に関する4つの目的

 

4番めの性能の改善(Improved Performance)というのがいまひとつピンと来ませんが、釣り合いの取れていない飛行はパワーをロスしているといった主旨の説明が出てくるので、機体本来の性能を引き出しよけいな燃料消費を抑えるといった意味だと、個人的には解釈しています。

 

ターンテンデンシーを決める4つの要素

機体の基本的な性格を決める旋回傾向は、4つの要素が合成されたものです。

  • 反トルク(Torque Reaction)
  • スパイラルスリップストリーム(Spiral Slipstream)
  • P-ファクター(P-Factor)
  • ジャイロ効果(Gyroscopic Precession)
機体に働く4つの力

機体に働く4つの力を理解する

 

反トルク(Torque Reaction)

プロペラ(とクランクシャフト)が回転する方向と反対に働く力が反トルクです。

プロペラが時計周りに回転する機体の場合、機体は反時計周りに回転しようとします。

図では機首を左へ向けるヨーも発生すると書かれています。

反トルク

プロペラの回転方向と反対の力が働く

反トルクで左側の車輪が地面に押しつけられることでブレーキとして働くためのようです。

 

プロペラ後流(Spiral Slipstream)

時計周りに回るプロペラによって後ろへ押し出された気流は、機体の周りを螺旋状に回って垂直安定板に当たります。
当たった気流は垂直安定板を右へ押すので、機首は左向きのヨーを発生します。

プロペラ後流(スリップストリーム)

プロペラ交流の影響で左へヨーがかかる

低速かつ推力が大きいとき、プロペラ後流の効果が最大になります。

 

Pファクター(P-Factor)

回転するプロペラは、コックピットから見て機体の右側では下へ動き、向かって左側では上へ動いています。

前から当たる気流に対するプロペラの迎角は水平飛行のときより、上昇中のときのほうが大きくなるため、上昇中はプロペラの右側のほうが左側よりも大きな推力を発生します。

これにより、機首に左向きのヨーが発生します。

P-ファクター

機体中心軸より右側のプロペラのほうが推力が大きいので、左ヨーが発生する

Pファクターは、機体の迎角が大きく、高出力のとき最大になります。

Pファクターと機体の迎角-水平飛行

水平飛行に近いとき、Pファクターは小さい

Pファクターと機体の迎角2-高迎角時

上昇中など迎角が大きいと、Pファクターが強くなる

尾輪式飛行機の場合、地上姿勢の時点で機首が上向きのため大きな迎角がついています。

このため、地上でタキシングしている段階からすでにPファクターの影響を受けています。

離陸時のPファクターについて

尾輪式飛行機は離陸時のPファクターに注意

 

3つの効果をデモフライトで確認

反トルク、プロペラ後流、Pファクターの3つは地上で飛行機が動き始めた段階から影響が現れます。

動画では、3つの効果が合わさった結果を説明しています。

まず、Bf109が滑走路に正対して停止しています。そこから動き始めると、機首が左を向いて滑走路を外れ、ぐるっと回り込みながら最終的には右へ横転します。

最初は、反トルクで左へロールしますが、まだ車輪が地面についているのでそれ以上は傾きません。ただし押しつけられた車輪がブレーキとして働くので、Pファクターと相まって左へのヨーを発生させます。

滑走開始

滑走路を直進

その後、機体が右へ横転するのは、左カーブでクルマが右へロールするのと同じ理屈です。

滑走路を赤い点線で表しています。

機首が左を向く

機首が左へ向き、滑走路から逸れ始める

機首が左を向いた状態(後方視点)

静止状態から急にスロットルを開かない

反トルク、プロペラ後流、Pファクターの影響は、滑走の段階から同時に現れます。

静止状態から動き出すとき、一気にスロットルを空けないようにします。

横転

急に左を向いたため機体が右へ横転

横転した機体(後方視点)

滑走路を外れて横転

左旋回中の機体(外部視点)

滑走路を外れて急に左へ回り込む

 

ジャイロ効果(Gyro Precession)

回転する物体にある方向の力を加えると、回転から90°遅れた角度に影響が現れます。
これを歳差運動(プリセッション)といいます。みそすり運動、すりこぎ運動などと呼ばれることもあります。

ジャイロ効果(プリセッション)

ジャイロ効果の基本

図によると、航空機の場合、推進力(後ろから前への力)が加わるため、基本的に左へ向こうとする性質があることがわかります。

さらに、滑走によって機体のテール側が持ち上がるとジャイロ効果によってテールが右へ動くので、結果として機首には左向きのヨーが発生します。

滑走開始(コックピット視点)

滑走路を直進中

滑走を開始した時点ですでに、反トルク、プロペラ後流、Pファクターの3つが働いて機首を左へ向けようとしているところへ、機体の速度がテールがもち上がることでジャイロ効果が働き、左へのヨーがさらに強くなります。

滑走路からそれる

滑走路を外れて草地へ

滑走路からそれる(後方視点)

尾翼側が上がったらラダーでさらに調整

したがってテールが持ち上がったらさらにラダーを踏んで調整する必要があります。

テールが上がるのが素早ければ、その分Pファクターも強くなるので、ラダーでの調整も強くする必要があります。

滑走開始(外部視点)

テールがすばやくあがると左へ向きやすい

左へそれる(外部視点)

滑走路を左へそれていく

 

上昇中の釣り合い

機体が上昇しているとき、スリップインディケーター(旋回釣り合い計)のボールがセンターに来るようにラダーで調整します(現代の機体ならターンコーディネーター)。

ボールが中央にあるとき、機体は内滑り(スリップ)も外滑り(スキッド)もせずに、釣り合った(Coordinated)状態で飛んでいます。

上昇中のターンコーディネーター

ボールが中央にくるようにラダーで微調整しながら上昇

釣り合っていない(Uncoordinated)状態は、ドラッグ(抵抗)が大きく、最高のパフォーマンスを出せていない状態です。

迎角(AoA)が大きく、対気速度が低く、ハイパワーな状態ではジャイロ効果が強くなるため、レフトターンテンデンシーも強くなります。

釣り合いがとれていない状態

ボールが偏っているときは釣り合いが取れていないため抵抗が大きい

安定した上昇

ボールが中央にあると釣り合いがとれている

高迎角での上昇

高迎角で上昇中

 

単発機の基本特性を理解して安全に飛行する

以上、ターンテンデンシーについて動画の内容に沿って紹介しました。

まとめます。

ターンテンデンシーの原因と影響

  • レシプロ単発機はエンジンとプロペラの回転により、どちらかに曲がろうとする
  • プロペラが時計周りの場合、左へ向こうとする力が働く
  • 旋回傾向には4つの力が働いている
  • 反トルク、プロペラ後流、Pファクターの3つは動き出した瞬間から同時に働く
  • ジャイロ効果は、機首上げなどの動作をしたときに働く

また、動画では地上滑走から離陸・上昇中を例に紹介していましたが、もちろん降下中や着陸後にも影響します。

 

ターンテンデンシー対策のまとめ

  • ラダーで調整する
  • 動きが発生してから対応するのでなく事前に予測する
  • 過剰な修正は避け、釣り合いをとって飛行するよう心がける
  • スロットルやラダーは急操作しない

 

 

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